肩関節のプリハブ
プロテニス選手の8割が肩のトラブルを抱える。インピンジメント、SLAP損傷、 腱板部分断裂。これらは「予防可能な怪我」だ。週3回の地味なプリハブが、 キャリア寿命を5年延ばす。
計測ターゲット
ER/IR 比
≥ 90%
外旋/内旋筋力比(投球側)
肩可動域
Total Arc ≥ 180°
内旋+外旋の合計
痛みゼロ稼働日
≥ 340日/年
競技稼働可能日数
スクリーニング頻度
4回/年
季節ごとの定期評価
▸ Mindset Codes
マインドセット
- 怪我ゼロは“結果”ではなく“KPI”。練習スケジュールと同じレベルで管理する。
- 「今日は痛みがない」は「明日も痛みがない」を意味しない。負荷の積分を見る。
- 5分の地味なプリハブが、5ヶ月のリハビリより安い。
- 回復は弱さの兆候ではなく、強さを作るプロセス。
行動設定 — Daily / Weekly Routine
- 毎練習前
バンド・ローテーター・カフ・ウォームアップ(IR/ER各20回)
- 毎練習後
肩前面ストレッチ + 後方カプセル・ストレッチ各60秒
- 週2回
ローテーター・カフ筋力トレーニング(Y/T/W exercises)
- 四半期に1回
フィジオによるスクリーニング(可動域・筋力・痛み評価)
なぜ肩なのか
サーブ1本で、肩関節は 体重の数倍の力 に晒される。1試合で100〜200本サーブを打てば、肩は数十トン相当の負荷を吸収していることになる。
肩のトラブル発症リスクの主因は3つ:
- 可動域の左右差 / GIRD(投球側内旋制限)
- ローテーター・カフの筋力比破綻(ER < IR)
- 肩甲胸郭リズムの異常
これらは毎日5〜10分のプリハブで大半を予防できる。
スクリーニング項目(四半期1回)
| カテゴリ | 評価内容 | 合格基準 |
|---|---|---|
| 可動域 | 内旋/外旋/総アーク | Total Arc ≥ 180° / 左右差 ≤ 10° |
| 筋力 | ER/IR/Empty Can/Full Can | ER/IR ≥ 90%, 左右差 ≤ 15% |
| 肩甲骨 | Scapular Dyskinesis Test | Type1〜3で記録、Type1合格 |
| 疼痛誘発 | Neer/Hawkins/O’Brien | 全陰性 |
”Tight Posterior, Weak Posterior”の罠
テニスサーブ後の減速期で、肩は前方に強く引かれる。その結果:
- 後方カプセルは硬くなる(GIRD)
- 後方筋群は伸びてしまい弱くなる
つまり「硬くて弱い」という、最悪のコンディションになりやすい。これを防ぐには:
- スリーパーストレッチ で後方カプセルを伸ばし続ける
- Y/T/W exercises で後方筋群を強化する
警告サイン
以下のいずれかが3日以上続いたら、即フィジオに相談:
- サーブ後の鈍痛が翌朝も残る
- 結帯動作で痛み(後ろポケットに手を入れる動作)
- 夜間痛(肩を下にして眠れない)
- スマッシュ時のクリック音
「プロは”我慢して打つ”を勲章にしない」。Federerが20年現役だった理由の半分は、彼が誰よりも早く違和感を申告したからだ。
ありがちな失敗
- 練習前ウォームアップが動的ストレッチだけ → カフの起動が不十分
- 筋トレで大筋群ばかり鍛える → 小さなカフが追いつかず破綻する
- 痛みが消えたらプリハブをやめる → プリハブは「症状管理」ではなく「日課」
- ベンチプレスを多用する → 肩前面が固まり、テニスサーブと相性が悪い
専門家コメント
「テニスでキャリアが終わる選手の多くは、技術ではなく身体で終わる。私たちフィジオの仕事は“治す”ことではなく、“治さなくていい状態を保つ”ことだ。」 — M. デサイル
練習ドリル
専門家が実際に練習に組み込んでいるドリル。週単位でローテーション可能な単位に分解されている。
バンド・カフ・ウォームアップ
練習前に肩のローテーター・カフを起動する
- 1 軽負荷バンドで内旋(IR)20回
- 2 外旋(ER)20回(肩甲骨を寄せた状態で)
- 3 L-rotation 15回
- 4 結帯動作ストレッチ60秒
Y/T/W シリーズ
肩甲骨周囲筋を強化し、上腕骨頭の安定性を高める
- 1 うつ伏せで両腕をY字に上げる×15
- 2 T字(肘伸ばし水平外転)×15
- 3 W字(肘を曲げて肩甲骨を引き寄せ)×15
- 4 各種目、肩甲骨の動きを意識して3セット
スリーパーストレッチ
後方カプセルのタイトネスを取る(GIRD予防)
- 1 横向きに寝て、下側の腕を90°外転90°屈曲
- 2 反対の手で前腕を下方向に押す
- 3 30秒キープ × 3セット(左右両肩)
- 4 痛みを感じる手前で止める
体幹→肩の連動ドリル
肩単独ではなく、キネティックチェーン全体で力を生む
- 1 メディシンボール3kgの回転スロー × 10
- 2 シングルアームのケトルベルクリーン × 8 左右
- 3 ハーフ膝立ちでのオーバーヘッドプレス × 10
- 4 すべて呼吸を止めず、肩甲骨の動きを意識